2016年 11月 05日
「はたらくおとこ」たちを揉んできた!
【「あいにいく保健室」について詳細は → こちらへどうぞ 】
もともと、演劇や映画のインタビュー記事を書いていました。
全盛期は10年ぐらい前かなあ。
同世代の劇作家がにょきにょきと頭角を現し、
俳優たちも互いにぐんぐんとつながっていき、
とても活発にコラボレーションが行われていたので、
複数の媒体で、同じ作家や俳優に、インタビューすることも少なくなかった。
この人たちとも、そんな感じで出会いました。
『はたらくおとこ』。初演は12年前です。
「阿佐ヶ谷スパイダース」なんつったらもー破竹の勢いで、
大人たちが我先にと彼らと手を組み、次々とプロデュース公演を実現させてた頃。
「自分たちのやりたいこと」つまり「自意識」たちと決別し、
「自分たちにしかできない表現」の模索期に入る、
ちょうど境目にあたる作品だったように思います。
わりとひどい物語です。
寒風しか吹きすさんでない寂れたリンゴ園で、
振り払っても振り払ってもまとわりついてくる絶望と、
ほんの一瞬だけ、きらりと顔を見せてはすぐ散っていく希望のお話。
小劇場界の猛者たちが、「若手」を過ぎて三十路の季節に踏み入った、
これも境目のお芝居だったなあと、今思います。
境目だから、バランス感覚がとても問われます。
どの方向にも偏らない。何にもつかまらずに自分の足で立つ。
全身のアンテナを研ぎ澄ますようにして、
彼らは舞台でのたうち回っていました。
そして、12年後。
当然ながら、彼らは四十路です。
12年の間に、みんな違う現場で、違う筋肉と、違う贅肉を蓄えています。
なのに、です。
みんな、アンテナびんびんだった。
「前をなぞろう」なんてしてる人は一人もいないの。
ただ、今、ここでできることの全部をしてる。
一人のこらず、そうしようとしてる。
私はねえ、そこに希望を見たなあ。
自意識のかたまりみたいな観劇体験が少なくないから、
そんなもんかなぐりすててのたうち回ってる人たちを見ながら、
しかも、笑えちゃう。っていう奇跡ですよ。
ええ、ひどいんです。ひどいお話なんですけど、
笑えちゃうの。なぜかというと、
彼らのスキルが半端ないから。
何の心配もなく、お話の世界に没入できちゃうから。
おー俺笑ってんなー、ひっでえなあ、たはは。
そうやって力が抜けていくのがわかる。
正しくあろう、よい人であろうと踏ん張ってる筋肉がほどけてく。
……ですがね。
舞台上にいる彼らの筋肉は、そりゃもう硬直状態なのです。
そこで!
行ってきました。
「はたらくおとこ」たちの足を揉みに!
私を呼び寄せてくれたのは、池田鉄洋さんと、松村武さんでした。
おふたりとも私の「保健室」計画を知っていて、理解してくれている方たちです。
演劇ライター期には聖域みたいに思えて、
めったに立ち入れなかった楽屋へすいすいと導かれ、
インタビュー以外ではほぼ接点を持とうとしてこなかった人たちの、
両の足を今、私は揉んでいる。
……なんだろうこれは。
揉みながら、身体の話をします。
わあ、冷えてるなあ。
呼吸器がお疲れですねえ。
胃のあたりも、ごりごりしますね。
「今回の見どころは!」「意気込みは!」
んーなこたあ、一切聞かない。
「全然痛くなかった!」「ちょうどよかったー」
「オガワさんの手があったかいなあ」
「足が軽くなった気がする」「細くなった気がする」
「鼻づまりがとれた気がする」「ほんとにー??」
表現者だもの。返ってくるフィードバックが半端ないのです。
夜の部の本番に向かう彼らを見送って、
いろいろ片付けて劇場を出ました。
人とのつながりって、終わらないんです。
終わったかに見えても、また違う形で、出会い直せたりする。
とても楽しかった。また来たいな。
そんなことを、つるっと、思ってしまいましたですよ。
追伸。
『はたらくおとこ』。
そのへんのハッピーエンドに「けっ」て思っちゃう人、必見です。
by shibe0814
| 2016-11-05 20:56
| あいにいく保健室